郊外に引越しを考えている人の中には、「再生団地」という言葉を聞いたことがある人もいるかもしれません。近年、老朽化が進む団地をさまざまなコンセプトで再生し、古いイメージの団地に新しい価値を吹き込もうとする活動が増えています。
ここでは、そんな新たな価値を持つ「再生団地」の事例について紹介します。
愛知県春日井市にある中部大学は学生数1万1000人(2020年)を誇る中部圏屈指の総合大学。そんな中部大学が現在取り組んでいるのが「地域連携住居」です。これは、UR都市機構・春日井市・中部大学の3者で取り組んでいる地域活性事業の一つで、住民が高齢化し、建物が老朽化してきた大規模団地「高蔵寺(こうぞうじ)ニュータウン」とその周辺地域の活性化を目的に始まった制度です。
3者ともに利益が出るように考えられたこの制度。中部大学では、他県から通学する学生が多い中、UR都市機構はその交通費分程度の家賃で部屋を仲介手数料・礼金なしで貸し与えてくれます。入居できる学生は、各地区の自治会加入および地域貢献活動への継続参加が条件となっており、例えば自治会のお祭りや防犯パトロール、運動会などで、若い人ならではの働きで地域に貢献しています。
また、学生は自主的に行事を企画し開催することが入居条件となっており、シニア世代との交流が増えます。大学側はこれらの活動を普段の授業では得られない貴重な体験として注目。学生たちは時にシニアの住民から進路相談や人生相談のアドバイスを受け、先生や親のような存在になることもあるとか。市としては、この制度を利用する学生が集まることで団地および周辺地域にも若い人が増え、街の活性化に繋がると期待を寄せています。
このように、大学、市、UR都市機構がともに利益を得られることを目指す団地の再生事業は全国でも珍しく、高蔵寺ニュータウンは注目を集めています。
東京都足立区は江戸時代から宿場町・千住を中心に栄えてきた町で、昭和40、50年代には団地建設がブームとなりました。しかし、少子高齢化の波にのまれ、建物の経年劣化が進んでしまった団地が増加しています。
そんな中、2020年3月に団地をリノベートしてオープンした「ジェイヴェルデ大谷田」のコンセプトは『読む団地』。本を介した住民同士のコミュニケーションを目的に、上階をシェアハウスエリア、1階を共同リビングとして大胆に改築。
広い共同リビングには約1000冊の本が並び、ワークショップも行えるラウンジが配置され、入居者同士や地域との交流を図れる場となっています。さらに25人が座れる座席と大型キッチンも完備され、本と料理に関するイベントも開催することが可能になっています。
もともと昭和52年築で1374戸からなる大規模団地の一角にあった保育士の寮を改築。若者向けのシェアハウスにしたところ話題になり2020年度のグッドデザイン賞を受賞しました。
こうした新しい試みによって若い人たちの入居が増えましたが、それに加え、もともと団地が持っている良さも再認識されています。この理由として周辺地域が団地に合わせて区画整備されているため、病院やスーパー、コンビニ、郵便局などが近くに整っていることです。生活に必要な施設へのアクセスが便利という点も再生団地の人気の秘密になっているようです。
団地と聞くと昭和のイメージがあって、古臭くて嫌だという人もいるかもしれませんが、若い人からシニア層まで誰もが利用したくなる施設を造ることで、団地を含め商店街区域全体を活性化したケースがあります。
神奈川県相模原市にある「相武台団地」は、築50年ほどの建物が立ち並ぶ昭和的な雰囲気を残した団地です。商店街に隣接しており当時は活気がありましたが少子高齢化によって、ここ数年は団地や商店街の空室、空き店舗が急速に増えていました。
そこで、相武台団地商店街区にもともとあった銀行支店の空き店舗を改装し、「ユソーレ相武台」という全世代型温浴施設を造りました。ここには各世代のニーズに合った施設が入っており、地域の憩いの場として人が集まっています。
若い女性に人気の「ミスト岩盤浴」をメインに、子どもが遊べるキッズスペース、子どもたちの学び・創造の場となるワークショップスペース、シニアの介護および介護予防の相談が可能なデイサービススペースおよび未病センターが設けられています。
また隣接する商店街区も芝生のある広い公園にリニューアルされ、天井のないオープンな町並みへと生まれ変わりました。
このように高齢者複合施設事業者、商店街事業者、教育機関、医療・介護事業者らが連携し、相模台団地と周辺地域全体をリニューアルしていくことで地域活性化につなげています。
昭和40~50年代に建設がピークだった団地は、すでに築年数が40~50年経ち、老朽化が進んでいます。この問題の解決策として建物のリノベーションが挙げられますが、それに加えて、団地ならではの敷地の広さを活用し、現代のニーズに合った施設を建てて再生するケースもあります。
埼玉県草加市の「ハラッパ団地・草加」は、もとは1971年築の社宅でしたが、1800坪(約6000㎡)という広い敷地内に2棟の団地(55戸)があり、この広い敷地を有効活用して再生しました。
まずは、団地を全室モダンな部屋にリノベート。残りの敷地には、近年需要が高まりつつあるプチ農業ができる約100坪の農園、ドッグラン(全室ペット可)、ピザ窯やレストランなど共有施設が団地内にできました。
さらに、IOT技術を駆使して、入居・退去のオンライン化、防犯センサーアプリ、農園の作物のモニタリングシステム、スマート家電の導入などで古い団地から最新の居住地区へと変貌。今では、引越ししたいという入居希望者が続出するほどの人気となりました。
団地の再生にはリノベーション費用だけではなく、街全体の人口流出問題、企業の撤退など、さまざまな問題があります。しかし、敷地が広い、生活インフラ施設がもともと整っている、賃料を安く設定できるといった、見方を変えればさまざまな魅力があります。
そうした特長を生かしてリノベートされた団地は、新しい技術やアイデアを取り入れており、住みやすいものになっています。もし、引っ越しを考えているなら、新築のマンションばかりではなく、団地にも目を向けてみてはいかがでしょうか。
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